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2011.05.20 Friday

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涙目は小悪魔

2007.07.01 Sunday 00:24
 通いなれた喫茶店『やどりぎ』の、いつもの窓際の席に座った俺は途方にくれていた。
「う〜……」
 目の前で、綺麗なメイドさんが未練がましく唸っている。
 どうしようもないことは、彼女にも――麻巳にも分かっているはずなのだ。それでもこうして食い下がるのは、単に俺を困らせようという意図でしか有り得ない。
 これはこれで嬉しいというか楽しいというか、そういう面も無くは無いのだが。麻巳自身のためにも、受け入れてやるわけにはいかなかった。
「今回は諦めろ。仕方ないじゃないか」
 ついつい折れてしまいそうになるのを必死で堪え、そう言って見せた自分を自画自賛する。実際、かなりの忍耐力が必要だった。
「だって、どうしてこんなことに……」
 応える麻巳は本当に悲しそうで、一度は耐えて見せた俺の心が再び悲鳴を上げるが――実際、言っている本人にもどこまで本気なのか分かっていないのかも知れない。
 付き合い始めてまだ一ヶ月。かなり濃密な日々を過ごしたためか、生真面目が服着て歩いているような彼女も、最近は俺に対してこういった冗談を平気で使いこなすようになっていた。曰く、俺がからかって遊ぶものだから負けてられない、とかなんとか。理由はやっぱり生真面目というか、負けず嫌いというか、そういった性質に由来していたりする。元々その気になりやすいのもあり、演技と言うにはいちいち真に迫りすぎなのだった。
 そもそも甘えてみせる事自体、殆どが我を通すためではないのがまた難しい。それを俺が見極めきれず、間違った対応をとるとご機嫌を損ねてしまう。
 そんなわけなので、状況を鑑みれば明らかに本気ではない今は冷静に対応してみせるしかなかった。
「大げさに言うなよ。ただ実家に帰るだけじゃないか」
「幼馴染の美人教師と一緒に、ですか?」
 丸っきり浮気を追求するような語調に、俺は飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになる。
 軽く咳き込む俺を心配して、麻巳が背中を擦ってくれた。お怒りの真っ最中でも気遣いだけは忘れない辺り、やはり身体の芯まで世話焼き体質が染み付いている。
「一度顔出せと言われてた所に、一緒に帰ろうか、と聞かれたら頷くしかないだろ」
 ――俺はなんとか喉の違和感を解すと、それだけを答えた。
「彼女を置いて?」
 言いながら俺の背中から手を離した麻巳は、とてもご不満そうに言うのだった。とりあえず平時の表情に戻ってはいるものの、とても和やかとは言い難い雰囲気である。
 俺は滲み出る何かに気圧されながら、それでも平静を装いながら言った。
「結果的にそうなったが、仕方ないだろ。ゴールデンウィークは大学の美術部で新歓旅行だなんて聞いてなかったし」
「それなら私も、大学の旅行はお休みしてですね――」
 さも名案とでもいうように指をピンと立てて言う麻巳だったが、俺は慌てて待ったをかけた。
「連れて行くのは構わない――というか、霧の奴も連れてってあげたら、とか言ってたし俺もその気だったが。そっちの旅行はお前が主役だ、休んでいいわけないだろ」
 新入生歓迎旅行と銘打たれてはいるものの、現部長が麻巳に気を使って企画したのは明白だ。何しろ俺が居た頃にはそんなイベントは無かったし。
 除け者にされていたわけではないものの、撫子以外から大学に入った者達には『桜花展銀賞受賞』の大物新人は近寄り難い存在らしく、少し距離をおかれていたという。
 竹内麻巳は外見通りのお固いだけの人間ではなく、深く付き合ってみれば非常に気安いし、意外と悪ふざけにも加担するような奴なのだが、外面がしっかりし過ぎなのも手伝ってか余計に『凄い人』扱いされているのが現状だ。
「そんなの、私のせいじゃないです」
 言いながら、麻巳は拗ねたようにそっぽを向いた。
 こういう幼稚な仕草も最近は見せてくれるようになったが、どうも俺に対してだけらしい。家族や親友にも、こういった顔はあまり見せないというから、我侭を言われているのに逆に幸せに浸りたい気分になる。
 そんな自分を何だか危ない傾向だぞ、と客観的に分析しつつ甘やかした言葉を吐きそうになるのを必死に堪えた。念を押すが、コイツは決して俺に折れて欲しいわけではないのだ。
 それにしても、叱って欲しくて我侭を言ってくる辺り、まったくもって面倒というか複雑というか。それがまた楽しくもあるのだが――ってのは今はどうでもいい。
「凄い賞取ったからって云々、何てやっかまれるだけだぞ」
「気にしません。もっと大きな問題が目の前にあるんですから」
 平然と断言する麻巳の反応を見て、逆にここまで言う以上はいつも通り見せ掛けの我侭なのだろうと確信出来る。ならば普段通り叱って否定してやれば冗談めかして笑って終わりだ。俺の『大人』な部分を望んでいるだけなのである。
 両親の放任主義のせいで、異性にそういったことを望む傾向があると気付いた時には、本人も驚いてたっけな。それについては理解しているつもりだが、出来れば何らかの妥協点でも見つけてやりたいところだ。でないとまた変に溜め込む。
 ――そうして俺が考えを巡らせている間に、麻巳はまた暗く沈んだ声で言い出した。
「私もまだ一緒に旅行に行ったことなんて無いのに。他の女性と実家に里帰りだなんて……」
「大げさに言うなよ。相手は霧じゃないか」
 何でもないように言った俺だが、その態度こそは癇に障ったらしい。スイッチが切り替わったようにテンションを上げて、
「そこが一番の問題じゃないですか! ただの幼馴染じゃないことくらい、私にだって分かるんですからね!」
 麻巳は怒気を孕んだ声を張り上げた。むしろ俺が周りを気にしてしまうくらいだった。
「た、ただならぬ関係だったみたいじゃないか」
 焦った俺はどもりがちに返すが、それが余計に怪しいとは自覚している。
 麻巳は疑わしそうな目でこちらを見ながら、それでも少しは周りを気にしたのか語調を弱めた。
「違うんですか? 私だって、少しくらいは勘繰ったりもします。元恋人か、さもなくば桔梗先生から告白したのにお子様だった浩樹さんが馬鹿な考えで断ったとか……どうせそんなところですよね」
「お、お前それ誰から聞いた!?」
 言ってから、それが認めたことになると気付く。ここは明らかに惚けてみせるべきだった。
 しまったという顔で固まっている俺に対して、麻巳は続けてにこやかに言った。
「柳さんて優しいですよね〜」
「あ、あの野郎。何て事を、よりにもよって何て相手に……」
 一度は疎遠になり、今はまた親友である温厚な青年の顔を思い出しながら、俺は呪詛を噛み締めた。
 しかし、俺の更なる余計な一言を聞いて、今度こそ麻巳の顔から完全に感情が消える。
「私はただ、客観的な人物評を言っただけです。本当にそうだったんですね」
 完全にやりこめられ、俺は思わず呻いた。今日の麻巳はいつにも増して手強い。というか、普段が手加減でもされていたのか?
 ――こちらが言い訳を考えている間に、気付くと麻巳は気弱な表情になっていた。
「私にだって独占欲みたいなものはあります。全てにおいて浩樹さんの一番になりたいのに……桔梗先生や鳳仙さんに、まだ幾つも一番を取られたままなんですよ?
 二人で実家に帰るだなんて、寂しいとか悔しいとか、そういうこと以上に不安な気持ちにもなります」
 唐突にしおらしくなり、涙目になりそうなのをどうにか堪えている麻巳を見て、俺はようやくその本心を知った。
 不安な気持ちを必死に堪えて、それを隠すように強い言葉を連ねていたのだ。やせ我慢の天才だからな、と思い知るのと同時にいたたまれない気分になる。どうして俺は、こうも鈍いのか。
「その……なんだ。本当にすまん。そのうち埋め合わせはするから、今回はそれで許してくれないか。夏休みにでも二人で旅行に行くとか……どうだろうか」
 思いついたというより、口から勝手に出てきた言葉だった。麻巳も意表を衝かれたらしく、きょとんとしている。
「一週間……」
 それでも彼女は数秒で立ち直ると、控えめにそう言った。
「うん?」
 よく聞こえなかったので、俺は聞き返す。
 金銭的に負担を強いることなので、さすがに言い難いのだろう。それでも意を決して、今度こそは俺の目をしっかりと見ながら、麻巳は言った。
「一週間の北海道旅行、なんてどうでしょう?」
「ろ、ろっぱくでしょうか?」
「七泊で」
 そこで上乗せですかお代官様。
 金銭的には厳しいが、拒否出来る立場でもなければ値切れる空気でもない。しかし、一日の違いはかなり切実だ。
 俺は割り勘派で、霧と飲んでも断固として半分払わせるのだが(それでも俺の負担分が不当に多いことは言及しておく)、相手が麻巳だと話が違う。
 何しろ社会人と学生のカップルだ。ちょっとした食事ならともかく、長期旅行の費用を払わせるというのはどうにも具合が悪い。というか明確に世間様の――特に相手側のご両親の目などが気にもなる。(ちなみに俺の部屋に来るのにその両親が笑顔で送り出す辺り、旅行に行くこと自体は何ら問題ない)
 元・生徒と付き合ってる時点で気にすることかと言われそうだが、だからこそ少しでも格好が付くように、とは俺みたいな出来損ないでも多少は考えるのだ。
 というわけで、俺は決死の覚悟で交渉を開始する。
「七泊となると、ちょっと金銭的に苦しいというか厳しいというかですね……」
「う〜……っ!」

 トレイで顔を半分隠しながらの涙目で唸られ、一瞬にして敗北。正直、言葉を重ねる勇気はアリマセン。
 ――いやまてよ。考えてみれば、短くせずとも安く済ませられる手があるじゃないか。
「なら七泊だ。そのかわり半分はうちの実家に泊まる、というところで駄目か?」
 俺が恐る恐る言うと、麻巳はピタリと泣き止んだ。露骨に安く済まそうとしたから怒ったか?
「全部……」
 不安に思いながらも様子を伺っていると、麻巳は小さな声で言った。
「うん?」
「だから、七泊全部でいいです」
「それはつまり、うちの実家に七泊するってことか? でもいいのか、俺としては助かるが」
 麻巳はこくんと頷いた。その仕草が妙に子供っぽくてドキリとする。
 俺は気恥ずかしさを誤魔化すように、わざと空々しく言った。
「うちの近くには目立って美味い店も無いぞ」
「それは誰かさんに腕を揮ってもらえれば……」
「観光地とかも近くには無いぞ? スキーシーズンでもないし」
「夏場の北国、涼しい山中、二人仲良く絵を描いたり――それだけで十分楽しいです」
 ちなみに、普通に受け答えしている麻巳は、まだトレイで顔を半分隠したままだ。さすがにもう涙目ではなく、今は恥ずかしそうに隠れている、という感じだが。
「それに、浩樹さんの通っていた学校を全部案内してもらったり、アルバムを見せて貰ったり。ご両親にも紹介してもらって、挨拶をして、結婚を前提にお付き合いしてます――なんてドラマみたいな展開に……」
「あ、あの〜、もしもし?」
 夢見心地で妄想を膨らませている麻巳。突然置いてきぼりにされた俺は控えめに声をかけたが、聞こえていないようだった。
 俺が戸惑っている間にも、彼女の妄想はますます勢いを加速させていく。
「こんな綺麗なお嬢さんをどうやって捕まえたんだ、とか言われて。捕まえたのは私だったりとかもウッカリ言っちゃって。馴れ初めなんて聞かれたら……どこまでなら話してもいいのかしら。浩樹さんはどう思います?」
「勝手にしてくれ……」
 悩ましげに身をくねらせながら続ける姿に、俺がゲンナリして投げ出したその瞬間だった。
「浩樹さん!」
 麻巳が唐突に抱きついて来た。
「店ではイチャつかないってのはお前が言い出した約束事だろ!?」
「だから私が破るのは構わないですよねー」
「んなわけあるかーっ!」
 いきなりの展開に嬉しいやら恥ずかしいやらで絶叫する俺だったが、
「浩樹さん、大好き♪」
 悪戯っぽい笑顔でそんなことを言われた日には、もう拒めるわけもないのだった。









 >あとがき
 SS倉庫にUPのつもりだったんですが、どうしようもなく地文がクドイのでこちらに。
 だいぶ手直ししたけれど、これ以上手間をかけるのもどうかと思い妥協。展開も気に入らない部分は有るんですが、元ネタとしては結構好きだっただけに残念です。

 挿絵は例によってこちらです→柳の風まかせ(ブタベストさん)
 もう少し上手くいくはずだったんですが。申し訳ない。

 今回のSSの元ネタである『うるるんメイド麻巳』以外にも、普段着素顔ストレートの麻巳ちゃんも公開中。自然な格好なのに、何故だか新鮮です。
 わざわざ眼鏡を外すということは……何かお願いでもされる寸前でしょうか?>浩樹

 朋子絵もSSと共に公開中。
 アフター書くには一番楽しい設定なんですよねぇ。うちでも、いずれいじってみたい。
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